コロナウイルスがまだまだ猛威を奮っている今日この頃ですね。
自分は家にこもってピアノを弾いていられれば幸せなので、それほどストレスは感じないのですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
さて今回もピアニスト紹介行ってみましょう。今日の主人公はクリスティアン・ツィメルマン。
若冠18歳でショパン国際ピアノコンクール覇者となり、現在もトップピアニストとして活躍しています。
大の親日家としても知られるツィメルマンの経歴・特徴・おすすめ演奏動画・おすすめCDについてご紹介していくことにしましょう。
目次
クリスティアン・ツィメルマンの経歴
ショパン弾きとして高い評価を受けているツィメルマンは、一体どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。
生い立ち
クリスティアン・ツィメルマンは1956年12月5日、ポーランドのザブジェという街で産まれました。
父親も工場で設計の仕事をしつつ、バーでピアニストとして活動していたとのことで、ピアノも自然と始めることとなったそうです。
5歳から父がピアノの手ほどきを始めましたが、7歳からはカロル・シマノフスキ音楽院にてアンジェイ・ヤシンスキという人物に師事し、本格的にピアノを学ぶこととなります。
ちなみにこのヤシンスキという人物、現在ではショパン国際ピアノコンクールの審査員長まで務めている超大物です。「ピアノの森」にも実名で登場していますね。
かなり早期からすごい人物にレッスンを受けていたわけですね。
ちなみに今でこそ隙のないピアニストのイメージがあるツィメルマンですが、13歳の頃にはコンクールを受けてビリになったこともあったのだとか。(コンディション不良が原因だそうですが)
バッハのパルティータを演奏したものの、トリルを全て失敗するほどの絶不調ぶりだったそうで。審査員席にはヤシンスキも座っていたそうですが、見ていてさぞ辛かったでしょうね。
でも、ツィメルマンにもこんな時代があったのだと思うと、なんだか人生に希望が持ててくる気がしませんか?
今現在苦戦しているパッセージがあるとしても、あなたも実は未来のツィメルマンなのかもしれないわけですよ。(さすがに言い過ぎか。)
コンクールでの栄光
1973年にはベートーヴェン国際音楽コンクールにて優勝を果たします。なんとまだ16歳での優勝です。
そして、その2年後の1975年にはショパン国際ピアノコンクールに出場。ここでも史上最年少(18歳)での優勝を果たします。
ちなみにポーランド人の優勝は1955年のアダム・ハラシェヴィッチ以来のことで、一躍ポーランドのヒーローとなります。
この時のツィメルマンは最初のステージから圧倒的な技術を発揮していたそうで、初めから「優勝は彼しかいない!」と思われていたそうです。
結果的に優勝だけでなく、マズルカ賞、ポロネーズ賞などの主要な賞も全て総なめに。いわば完全優勝を果たす形となりました。
ポーランドとの離別
ポーランドの英雄となったツィメルマンでしたが、1981年にはポーランドで戒厳令が発令されます。
当時のポーランドは民主化運動が活発化し、他方ではソ連が内政介入を試みる、という穏やかでない情勢でした。それに対抗すべく、あらゆる権限を政府(軍部)に集中することを定めたのが、この戒厳令です。
ツィメルマンもこれをきっかけにポーランドを後にし、スイスへと移住することを決意します。1996年にはバーゼル音楽院の教授にも就任しています。
ショパン没後150周年イヤーの1999年にはポーランドの若手音楽家と共にショパンのピアノ協奏曲を演奏するツアーも敢行しています。
その後もトップピアニストとしてカラヤンやバーンスタイン、小澤征爾など名だたる指揮者と共演を重ねるなど、世界中のファンを魅了し続けています。(2010年のシーズンが終わった後、一度休養を取ったことはありましたが。)
クリスティアン・ツィメルマンの特徴
長い歴史を持つショパンコンクールのレジェンドの一人であるツィメルマン。彼はどんな人物なのでしょうか。
大の親日家
ピアニスト界にも親日家は少なくありません。同じショパンコンクール優勝者であるマウリツィオ・ポリーニ(1960年)、マルタ・アルゲリッチ(1965年)も大の日本好きとして知られていますね。
ツィメルマンは1978年から数年おきに来日を繰り返していましたが、2006年からはほぼ毎年来日しています。日本で行ったリサイタルの数は250を超えるそうですよ。
そして東京に自宅を所有しています。1年のうち1/3くらいは日本で過ごしているそうで。東京での目撃情報もちらほらあるそうですよ。
愛しのマイピアノ
学生時代のツィメルマンはよく自分でピアノの調律だったり、部品の製作や修理を行っていたそうです。そのため、ピアノの構造に関しては相当の知識を持っております。
スイスの自宅には自分で製作したピアノもあるのだとか。
そんな経緯もあって、ピアノへのこだわりが人一倍強いのがツィメルマンです。コンサートを行う際には必ずマイピアノを輸送し、ホールの特性や曲目に合わせて調整します。(お付きの調律師もいるそうですが。)
こんなことをずっとやっているため、音響学やレコーディング技術に関しても相当な知識を持っている模様。
ちなみに2001年、同時多発テロから間もない頃にカーネギーホールで演奏会を行う予定だった際には、ニューヨークの空港にて自身のピアノが運輸保安庁によって危険物と勘違いされ、没収&破壊処分という悲劇にも見舞われています。
まあ、あんな大惨事のあとですから、空港職員も相当ナイーブになっていたのは想像に難くありませんが……。
後にアメリカの東欧ミサイル防衛構想に反発し、アメリカでの演奏は2度と行わないと宣言している彼ですが、この件の恨みもあるのでしょう。おそらく。
レパートリー
ツィメルマンはショパンコンクールでの優勝経験があるために「ショパン弾き」というイメージを持たれていますが、ショパンのレパートリー自体は決して多いわけではありません。
本人も「全集は作りません。作曲家に対する視点の欠如に他なりませんから。」と述べており、決してショパンにこだわるつもりはないようです。
ベートーヴェン、ブラームス、ドビュッシー、ラヴェル、シューベルト、ラフマニノフなどショパン以外の作曲家の作品にも積極的に取り組んでおり、なかなか幅広いレパートリーの持ち主です。
安心と信頼のツィメルマン品質
ツィメルマンはいつもクールな表情をしているイメージですが、実際根っからの真面目人間と言って差し支えありません。
ステージで演奏するまでに約10年もの歳月を費やすことも。完璧主義者ゆえ、人前で満足のいかない演奏はしたくないということなのでしょう。
また、テクニックに関しても盤石。ミスタッチが極めて少なく、隙のない演奏が特徴的です。
アルゲリッチのようなある種ヴィルトゥオーソ的なテクニック、というよりは一音一音くまなく完璧に鳴らすテクニックに長けている印象です。
さすがショパンとベートーヴェンの名を冠する2つのコンクールで優勝しただけあります。
歌い回しだったり全体の構成に関しても、細部まで気を配っており、全ピアニストのお手本的存在と言っても過言ではないでしょう。
クリスティアン・ツィメルマンのおすすめ演奏動画
巨匠クリスティアン・ツィメルマンの堂々たる演奏動画をご覧いただくことにしましょう。
バラード1番(ショパン)
再生回数がなんと600万回を超えるという、ツィメルマンの名演です。
名だたるピアニスト達がこぞって録音を残しているショパンの超名曲ですが、ツィメルマンの演奏はいい意味でクセもなく、間違いなく最高峰の演奏でしょう。
この曲の最大の見せ場であり、数々のピアニスト達を苦しめてきた難所が最後のコーダPrest con fuccoですが、ツィメルマンはなんとこの箇所の全ての音をくまなく鳴らしております。
アルゲリッチやユジャ・ワンのように激しさとスピードを重視して弾き切るタイプのピアニストと、ショパンらしく激しくなりすぎずに丁寧に演奏するタイプに二極化する印象のあるこのコーダですが、ツィメルマンは後者のタイプの中ではベストなのではないでしょうか。
全体の隅から隅まで緻密に構成され、歌いあげられており、隙の全くない演奏となっております。
ちなみにツィメルマンのバラード1番は、あの羽生結弦選手のSP音源としても採用されております。世界最高峰のアーティストの共演ですね。
ピアノ協奏曲第2番(ブラームス)
ブラームスは生涯に2つのピアノ協奏曲を残していますが、いずれも超難曲として知られています。
難曲というよりは、ブラームス自身がピアノで演奏することができるのか否かをあまり確認せずに作曲したために、理不尽な箇所がいくつもあるといった方が正確かもしれません。
そんな経緯もあって、多くのピアニスト達がうまく誤魔化しつつ演奏しているのですが、ツィメルマンはどの音も完璧に打鍵しております。
なんでしょう。もう冒頭のホルンの直後のピアノパートの出だしの音からして違います。
決してテクニックを見せびらかすような演奏ではなく、さりげなくすごいことをしているんだ、ふと気付かされるようなかんじ。
苦労を微塵も感じさせることなく、それだけ聞き入ってしまう演奏をしているところが彼の本当の凄さなのではないでしょうか。
クリスティアン・ツィメルマンのおすすめCD
クリスティアン・ツィメルマンの至極の名盤をご紹介いたします。
ショパン ピアノ協奏曲
名演を挙げれば枚挙にいとまがないのがショパンのピアノ協奏曲です。このアルバムでは第1番と第2番の両方を収録しています。
これは先述のショパンの没後150年ツアーの際の録音となっており、オーケストラはポーランド祝祭管弦楽団、指揮はツィメルマンの弾き振りという構成になっています。
このツアーのためだけに構成されたオーケストラなのですが、彼らの演奏この上なく素晴らしい。
「ショパンの協奏曲はオーケストラが退屈だ」などとよく言われますが、ツィメルマンが指揮をすると、そのイメージが一気に払拭されます。
ツィメルマン自身ソリストも務めていますが、オーケストラとのコンビネーションが見事という他ありません。ソリストの独壇場になりがちなこの曲を見事な連携でこなしています。
もちろんツィメルマン自身のピアノはどこまでもロマンティックでさすがのクオリティ。
ピアニストとしてのツィメルマンだけでなく、一人の偉大な音楽家としてのツィメルマンの器の大きさを感じさせるアルバムです。
シューベルト ピアノソナタ第20番&第21番
こちらシューベルト晩年の2つのピアノソナタを収録したアルバム。新潟県のホールで録音されたそうですよ。さすがツィメルマン。
シューベルトのソナタは規模が非常に大きいというのもあって、それほど頻繁に演奏される訳ではありません。
いい曲なんですけど、長すぎてコンクールのプログラムとして使いづらいみたいな事情のあるのかもしれません。
やや速めのテンポ設定ながら、相変わらずコントロール能力は完璧。細部までのこだわりもさすがツィメルマンといったところで、40分近い長大なソナタを少しも飽きさせることなく聴かせてくれます。
おわりに

さて、今回は現役最高峰のピアニストの一人、クリスティアン・ツィメルマンをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
どこまでも自分に厳しく、完璧な演奏を求めるその姿勢は感服するばかりです。
演奏会ではレコーディングを行っていない曲も多数演奏しているので、ぜひリサイタルにも足を運ばれてみてはみてはいかがでしょうか。
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