世界を見渡せば、実に多くのピアニストがいるものです。いや、当たり前の話なんですけどね。
そんな世界中のピアニストが尊敬して止まないピアニストがグレゴリー・ソコロフ。
日本ではあまり馴染みがない名前かもしれません。でも、それも仕方ありません。何せ日本にはほとんど来てくれないのですから。
西洋諸国では活発にコンサートを行うのに、なかなか日本公演を行わないことから、いつしか「幻のピアニスト」の異名さえ持つように。
そんな謎に満ちた巨匠グレゴリー・ソコロフの経歴・特徴・おすすめ演奏動画・おすすめCDについて見ていくことにいたしましょう。
目次
グレゴリー・ソコロフの経歴
グレゴリー・ソコロフの経歴について見ていくことにしましょう。
生い立ち
グレゴリー・ソコロフは1950年4月18日、ロシア(当時のソヴィエト連邦)のレニングラードで生まれました。
父はユダヤ人、母はロシア人ということでハーフの生まれだったようです。
5歳からピアノを習い始め、7歳でレニングラード音楽院付属の「子供のための特別学校」へと入学。リア・ゼルクマンから指導を受けます。
12歳でモスクワにてバッハ、ベートーヴェン、シューマン、ショパン、ラフマニノフ、スクリャーヴィン、ドビュッシーなどの作品からなるプログラムで初のメジャーリサイタルデビューを果たします。
決してピアノを始めたのは早くないだけに、その末恐ろしい才能が伺えます。
早すぎる栄光
早くからピアニストとしての頭角を表していたグレゴリー・ソコロフですが、なんと16歳にしてチャイコフスキー国際コンクールで優勝を果たします。
そもそも16歳で出場するだけでもすごいというのに、優勝ですよ。やはりピアニスト達が神と崇める存在だけあってただものではありません。
この大会の審査員長はかのエミール・ギレリスで、彼も大絶賛だったそうですよ。ちなみにソコロフもまたエミール・ギレリスを尊敬して止まないんだそうな。
説明しておくと、ギレリスはかのリヒテルのライヴァルだったロシアの実力派ピアニストです。「鋼鉄のピアニスト」の異名を持っていたことでも有名。
ソコロフの優勝を伝えたメディアは次のようにソコロフのことを評しています。
彼は見事な指とよく調和されたテクニックを持ち、ピアノを軽々と操り、サン=サーンス協奏曲第2番の最終楽章のプレステッシモを本当に洗練された軽やかさで演奏する。驚愕の演奏でした。この若き才能あるピアニストについては、これからもっと多くのこと(評判)を聞くことになるだろう
政治情勢に翻弄された神童
16歳でチャイコフスキー国際コンクールで優勝となると、レコーディングに演奏会にと、引っ張りだこになるはず。
ところがソコロフはそうはいかず。国際的には「姿を消した天才」となってしまいます。
当時のソ連はというと、アメリカとの緊張した関係を強いられ(冷戦)、渡航制限を行っていたことなどが影響し、国外で活動することも容易ではなかったのです。
ただ、厳密には全くロシア国外で演奏しなかったという訳ではありません。1970〜1980年の間に米国、日本、フィンランドなどで演奏した記録も残っています。
ただいずれにせよ、自由に国を行き来して演奏会を行うことができる情勢でなかったことは確かです。
西洋では噂を聴くものの、演奏を聴いたことがあるものは誰もいないことから「幻のピアニスト」の異名まで。
特に1980年代はアフガニスタン戦争などアメリカとの関係性に幾多もの変化が訪れたため、アメリカでの演奏活動には大きな支障が出てしまいました。
ソ連崩壊後
ソ連崩壊後、ソコロフはようやくヨーロッパでもコンサートを行うようになります。いやむしろ、今では演奏会のほとんどがヨーロッパで行われているくらい。
参考までに彼の公式HPを見てみてはいかが?もう潔いくらいヨーロッパから離れません。
https://www.grigory-sokolov.net/concerts
日本では何か好ましくないことがあったのでは?とかアメリカが嫌いなのでは?とか色々噂はされていますが、本人が多くを語るタイプではないので、真相は謎のまま。
もう長いことヨーロッパを転々とする生活を送っているので、今更生活スタイルを変えるのも面倒ってだけなのかも。
また、大の録音嫌いで知られるソコロフですが、2014年にはグラモフォンと契約して、過去のライブ録音をCDとして出すなど、変化の兆しも。
日本のクラシック音楽ファンにとってはまだまだ謎に満ちた部分も多いピアニストなだけに、こうやって露出が増えるのはありがたい限りです。
グレゴリー・ソコロフの特徴
グレゴリー・ソコロフの特徴について見ていくことにしましょう。
演奏スタイル
ソコロフの演奏はミスタッチが少なく正確です。かといってそれをひけらかすような感じも一切無いため、「すごい」と感じることなく、それが当たり前のように聞こえてくると言いましょうか。
ロシアのピアニストにありがちな傾向ですが、バスの音も非常に豊かな響きを持っており、弱音のコントロールはどこまでも繊細。それゆえ、ダイナミズムの幅が非常に広く感じられます。
音色も非常に多彩で、もうピアノという楽器を完全に熟知し、支配しきっているかのよう。
全世界のピアニスト達が口を揃えて「尊敬するピアニストはソコロフです。」というのも頷けます。
YouTubeとCDでしか彼の演奏に触れたことが無い自分が情けなく思えるほど、卓越した存在なのです。
アンコールは終わらない
いや、もちろん本当に永遠にアンコールを弾いてくれる訳では無いですけどね。でもアンコールを6〜7曲弾くことは彼の演奏会では当たり前。
インタビューに応じることも少なく、ステージ上では拍手をされてもポーカーフェイスのままアンコールを弾き始めるそうですが、なんだかんだサービス精神旺盛なのですね。
グレゴリー・ソコロフのおすすめ演奏動画
グレゴリー・ソコロフのおすすめ演奏動画についてご紹介していきます。
パルティータ1番 ジーグ(J.S.バッハ)
この動画を見るだけでもソコロフの凄さがわかるのではないでしょうか。
年齢を全く感じさせないキレッキレな演奏。全ての音がきっちりと鳴らされており、流石のテクニック。
上手いを通り越して「崇高」とでもいうべきなのでしょうか。
ピアノ協奏曲第3番(ラフマニノフ)
こちら若かりし頃のソコロフの演奏。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番といえば、理不尽なまでの難曲として悪名高い曲です。
若くて元気なだけあって、めちゃくちゃ動きます。髪の毛もフッサフサ。
今ではお腹周りもぽっこりして、あまり激しく動くイメージは無いのですが、年齢を重ねると演奏スタイルって変わるんだなと。
グレゴリー・ソコロフのおすすめCD
グレゴリー・ソコロフのおすすめCDについて見ていくことにしましょう。最近CDがどんどん出てるのは嬉しい限り。
Schubert/Beethoven
こちらベートーヴェンのソナタ29番「ハンマークラヴィーア」とシューベルトの即興曲D.899が収録されております。
特にベートーヴェンに関してはこれまでに無い斬新な解釈です。他のピアニストに比べてテンポは遅いのですが、その分情緒溢れる演奏に。
ピアニストにとって難曲とされている同曲ですが、ソコロフの演奏はそんなことを微塵も感じさせず、あまりにも美しい音で、この曲の新たな可能性に切り込んでいくかのよう。
ソコロフのアルバムの中でも特に聴いて欲しい至極の演奏です。
Various works for piano solo
こちらはシューマン、ストラヴィンスキー、プロコフィエフと多彩な作品を楽しむことができるアルバム。
特に「謝肉祭」は個人的におすすめ。ソコロフとシューマンは相性が良いような。
可愛らしい小品が目まぐるしく切り替わっていくこの作品において、抜群の構成力を見せてくれます。
おわりに
さて、今回は「幻のピアニスト」グレゴリー・ソコロフについて見てきました。
その偉大さは多方面から伝え聞くものの、日本に長らくおいでになっていないのは、本当に寂しい限り。
「どうしても、ソコロフを聴きたいんだ!」という方は、うまく日程を組んでヨーロッパ旅行をするなどしないといけないかもしれませんね。
「なるシェア」を気に入った方は、Twitterに随時更新情報をアップしているので是非フォローして下さいね!