今日は現代世界最高のピアニストの一人である、エフゲニー・キーシンについてご紹介します。
世界中のピアニストは皆、神童エピソードの一つや二つ持っているものですが、キーシンほど神童のイメージが強いピアニストはいないのではないでしょうか。
10代前半の頃から世界中に注目され、その頃の輝かしい活躍というのは、現在でも多くの人に鮮烈な印象として残っています。
現在では、多大なプレッシャーを物ともせず、現役最高峰のピアニストに。
そんなエフゲニー・キーシンの経歴、特徴、おすすめ演奏動画、おすすめCDについてご紹介していきます。
目次
エフゲニー・キーシンの経歴
エフゲニー・キーシンは1971年10月にロシアのモスクワで生まれました。
寒いところで生まれただけあって、キーシンって色白ですよね。
1歳の時には親が弾いているピアノ曲のメロディーを歌うようになっていたようです。神童の予兆、といったところでしょうか。
そして2歳の時から自らピアノを弾くようになり、3歳になる頃には自ら作曲や即興演奏を行なっていたようです。
こんな3歳児、ありえるのかって感じですね。
最初はピアノと戯れるといった感覚だったようですが、その才能を開花させるべく6歳の時、モスクワのグネーシン特別音楽学校に入学し、本格的にピアノを学び始めます。
ここで出会ったのが、現在まで師事し続けているピアノ教師アンナ・パヴロヴァナ・カントール。
キーシンは30年以上にもわたるキャリアを送っていますが、彼女以外に師事したことは一度もないそうです。
よほど強い絆で結ばれているということなのでしょう。
このカントール先生、レッスンの際に自らお手本を弾いてくれることはなかったそうです。
自分の演奏を聞くことで、せっかくの才能が「カントール流」に染まってしまうのを恐れていたのだそうです。
10歳の時にはモーツァルトのピアノ協奏曲第20番を演奏し、初めてその巨大な才能を大衆の前で披露します。
さらに11歳で本格的なソロリサイタルを行なっています。
そして、1984年、彼が12歳の時にはモスクワ音楽院の大ホールでモスクワ国立管弦楽団との共演でショパンのピアノ協奏曲2曲を演奏しています。
この時の演奏は録音が発売されるや否や、文字通り世界中を虜にしたそうです。
また1986年には世界3大コンクールの一つであるチャイコフスキー国際ピアノコンクールのオープニングコンサートの奏者も勤めました。
ちなみにピアニストというと、国際ピアノコンクールで入賞して名前を売るのが一般的ですが、キーシンはこれまでのキャリアでほとんどコンクールに出場したことがないピアニストです。
子供の頃に小さなコンクールに出たことがあるという程度。
キーシンの場合、ショパンのピアノ協奏曲の録音をきっかけに世界中に神童として認知されたため、国際コンクールに出場する必要がなかったのでしょう。
ちなみにコンクール歴があまりないままトッププレイヤーに上り詰めたピアニストとしては他に、ゲイリー・グラフマン門下のユジャ・ワンとランランが有名です。(こちらの場合は師匠の方針だったそうですが。)
1985年になるといよいよロシアから出て世界中でコンサートを行うようになります。翌年には初めての来日も果たしています。
逆にこれ以前は当時の政治情勢も合って、国外に出るのが難しかったんですね。(まさにアメリカとの冷戦真っ只中でございます。)
1988年には今は亡き伝説的指揮者カラヤンとの共演を果たします。この際、キーシンのピアノを聴いたカラヤンが涙を浮かべながら、
「この子は天才だ。」
と言ったというエピソードはあまりにも有名です。
1990年には聖地カーネギーホールにおいてリサイタルを開いたり、グラミー賞を受賞したりと、その後も輝かしいキャリアを歩み続けています。
エフゲニー・キーシンの特徴
現役最高の男性ピアニストの一人であるエフゲニーキーシンの人物像についてさらに迫っていくことにいたしましょう。
美しき天然パーマ
神童時代のキーシンといえば髪型、と言っても過言ではないほど、綺麗な天然パーマをしています。
現在も依然髪の毛がクルクルとしていますが、子供の時と違って撫で付けているようですね。
しかし彼の努力もむなしく、コンサートが進み演奏も熱を帯びてくるとだんだん頭がカリフラワー化していくことも度々あるそうな。かわいいですね。
幼馴染と結婚
エフゲニー・キーシンの恋愛事情については長らく全く情報がありませんでした。そもそも世界中をコンサートで飛び回ってるわけですから、追いかけるのが難しい。
しかしながら、2017年、キーシンは10代の頃からの付き合いである一般人女性と電撃結婚したというニュースが世界を駆け巡りました。
今まで恋人の存在すら誰一人知らなかったものですから、クラシック界ではちょっとした話題に。
にしても相当に長いお付き合いを経てのご結婚だったのですね。
彼の演奏に対する真摯な姿勢というのは、恋愛に関しても同じだったのかもしれませんね。
最高級の技巧と強靭なタッチ
エフゲニー・キーシンの演奏を見ているとわかるかと思いますが、強音に関しては相当なネルギーを持って打鍵していることがわかります。とりわけバスの音はそれが顕著です。
もっとも、この強靭なタッチというのはロシアのピアニスト全般に見られる傾向ではありますけれども。(往年のリヒテルはまさしくこのタイプ。)
一昔前、「ロシア奏法」なるものが話題になりましたけれども、キーシンもその源流を受け継いだ弾き方をしています。
この奏法、伸筋はそれほど使わない代わりに強靭な屈筋と腱が要求されます。それもあってあの重量感のあるタッチが可能となるのです。
体の動きもなかなか不思議ですが、あれも実はロシア奏法を実現するために必要な動きなんだそうです。
彼の奏法はエネルギー効率が良いからこそ、あの超絶技巧が生み出されているのかもしれませんね。
作編曲もお手の物
キーシンは幼少期、自分で曲を作って弾いて遊んだりしていたそうですが、プロになってからも作編曲を手がけています。
その代表例としては、 “Dodecaphonic Tango” があります。こちら無調性の作品で なかなかに難解。
演奏してみたいという方は、他のキーシンの楽曲とまとめた楽譜がヘンレ社から出ております。
多重国籍の持ち主
エフゲニー・キーシンはロシア生まれながらもイギリスとイスラエルの国籍も持っています。
イスラエル国籍を取得したのは、実はキーシン自身がユダヤ人としての血を引いているということが関係しているそうです。
最近ではユダヤ人の視点から、政治的な話題についても積極的に発言しているようです。
読書と朗読がお好き
エフゲニー・キーシンは大変な読書家だそうで、インタビューでもロシア文学の美しさについて度々語っておられます。
どうやら好奇心が強いというか、興味を持つと止まらなくなってしまう性格のようで、それが読書好きにつながっているのかもしれません。
また、詩の朗読も行なっていて、イスラエルの言語で詩を朗読するという活動も行なっているようです。
文筆家として
キーシンは神童として話題になりながらも、詳しい生い立ちについては長らく知られていませんでした。
しかし、2017年にキーシンは自身の自伝を出版しています。「インタビューで聞かれることがいつも同じなので、まとめて答えてみようと思った。」というのが動機だそうで。
その自伝がこちら。
カントール先生との出会いとレッスンの様子、ユダヤ人としての自覚、好きなピアニストについても記しています。
あの往年の名ピアニストに関しては実は批判的な立場を取っていることも明らかになります。(誰でしょうか)
キーシンは今まで自らについて多くを語るタイプではなかっただけに、読む価値は十分にある1冊です。
レパートリー
エフゲニー・キーシンと言えば、技巧が求められる華やかなが得意です。
それゆえ、レパートリーとしてはショパンやリスト、ラフマニノフ、スクリャービン、プロコフィエフといった作曲家の楽曲が中心となっています。
他にもベートーヴェンやメトネル、ブラームス、チャイコフスキーなどをレパートリーに取り入れています。
技巧的な曲が得意であるとは言え、50歳も目前ですので、これから次第にレパートリーも変化していくことが考えられます。
エフゲニー・キーシンのおすすめ演奏動画

現役最高峰のピアニストの演奏動画から特におすすめのものをご紹介します。
ピアノ協奏曲第1番(ショパン)
この曲はショパン国際ピアノコンクールのファイナルでほとんどのファイナリストが演奏するので、馴染みがある方も多いのではないでしょうか。
この曲、一見優雅そうに聞こえますが、ソロパートはショパンらしい技巧の数多くが盛り込まれた、実は非常に高度な演奏技術が求められる曲でもあります。
キーシンは難しいパッセージをいとも簡単に弾くだけでなく、その一つ一つのフレーズにきちんとニュアンスを込めて演奏しているところがさすがだなと思います。
もし仮にキーシンがショパンコンクールに出場していたならば、きっと優勝していたことでしょう。
ラ・カンパネラ(リスト)
ピアノの難曲としてもっとも有名なのがこのら・カンパネラなのではないでしょうか。
キーシンがまだ若い頃の演奏ですが、難しい跳躍もいとも簡単にこなしています。
ところで、このホール、観客がステージを囲むような形となっております。全方位から視線を浴びながらの演奏、プレッシャーがすごそうですね。
トッカータ(キーシン)
こちらキーシン作曲の作品。
若干ジャズっぽいというか、アメリカ映画風の旋律も顔をのぞかせる非常に興味深い作品です。
コメントに「ガーシュウィンみたいな曲だ!」と書いてあって、確かに感。
ショーピースとしてこんな作品が弾けたらさぞ盛り上がるんでしょうね。
エフゲニー・キーシンのおすすめCD

Live in Tokyo 1987
こちらわずか16歳のエフゲニー・キーシンが来日した際のライヴ録音です。
リスト、ショパン、ラフマニノフの代表的な作品が演奏されているのですが、16歳だというのに若さと洗練度を最高のバランスで両立しています。
このCDの面白いところとして、アルバムの最後にキーシン自身が編曲した日本の童謡が収録されていることが挙げられます。
実際のライヴではアンコールとして演奏されたとのことですが、当時の人々は相当に驚いたのではないでしょうか。
神童と呼ばれし時代のキーシンを堪能したいという方にはおすすめです。
Schumann
こちら2002年の録音です。31歳ということで、キーシンの中で一つのピークを迎えつつある時期といってよいでしょう。
(念のために書いておきますが、彼は決して下り坂のピアニストである、なんて言ってませんよ。)
このアルバムにはシューマンを代表する2つの大曲、「ピアノソナタ第1番」と「謝肉祭〜4つの音符による面白い情景〜」が収録されています。
シューマンの曲はそもそも音を並べるだけでも、相当に技巧を要する作品がほとんどです。
どちらも30分近くかかる大曲であり、全体の構成力も要求されてきます。
それでも、さすがキーシンというべきでしょうか。技巧面、表現面、構成力のいずれも高い次元でまとめられています。
「謝肉祭」は20にも及ぶ性格小品から構成されていますが、それぞれのキャラクターがしっかりと弾き分けられており、間違いなく名演と言えるでしょう。
おわりに

さて、今回は現代ピアノ界を代表するピアニスト、エフゲニー・キーシンについてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
あの美しい天然パーマこそ失われつつありますが、それでも肝心の演奏の方はまだまだ一線級。これからの活躍にも期待したいところです。
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