さて、本日は久しぶりにピアニスト紹介を。
今日の主人公はダニール・トリフォノフ。
ニコライ・ルガンスキーやドミトリー・シシキンと並んで、現在ロシア人ピアニストの中でも特に精力的な活躍を見せているピアニストの一人に挙げられます。
かのタイムズ紙をして
私たちの時代で最も驚異的なピアニスト
と言わしめるほど。
未だ20代にして、すでに巨匠の貫禄さえ漂わせているトリフォノフの経歴、特徴、おすすめ演奏動画、おすすめCDについてご紹介していきます。
目次
ダニール・トリフォノフの経歴
早熟な青年時代
ダニール・トリフォノフは1991年3月5日、ロシアのノヴゴロドで生まれました。
ピアノを始めたのは5歳の時。意外とそこまで早くないのですね。
しかし、その後わずか2年で初のリサイタルを開いたそうなので、やはり天性のものを持っていたことには疑いありません。
2000年からはグネーシン音楽院でタチアナ・ゼリクマンという人物に師事するようになります。
同じモスクワに拠点を置くモスクワモスクワ中央音楽学校と並んで、ロシアで最も高いピアノ教育が行われている学校ですね。
ゼリクマンの下では
- 2006年 モスクワ国際ショパンコンクール 第3位
- 2008年 スクリャービン国際コンクール 第5位
- 2008年 サンマリノ国際ピアノコンクール 第1位
と、早くも国際コンクールでも名を挙げるほどの存在に。流石であります。
恩師ババヤンとの出会い
2009年にはゼリクマンの推薦で、アメリカのクリーヴランドの音楽院へと進学。ここでアルメニア人ピアニスト、セルゲイ・ババヤンの指導を受けることとなります。
このババヤンというピアニスト、馴染みがあまりないという方もいらっしゃるかもしれませんが、浜松国際ピアノコンクールで優勝を果たすなど、密かに高い評価を受けているピアニストであります。
プレトニョフのお弟子さんでもあります。(歳の差が4歳で師弟関係ということだそうですが。)
ババヤンとトリフォノフはどうやら相思相愛のようで、ババヤンがトリフォノフのことを
ダニール・トリフォノフのような希少なダイアモンドを私のスタジオに持つことは大きな責任であり、親が自分の子供が特別な存在であることに気づくのと同じように幸せなことです。あまり大袈裟に言いたくはないのですが、ダニール・トリフォノフのような音楽家は世界に数少ないと思います。
と言ったかと思えば、トリフォノフもまたインタビューでババヤンと似たような言い回しをしたりといった具合。
硬い絆で結ばれているということは想像に難くありません。
ショパン国際コンクールでの活躍
ババヤンのもとで研鑽を積んでいたトリフォノフでしたが、2010年にはショパン国際ピアノコンクールに挑戦。
言わずもがな、世界3大コンクールの一つであります。
トリフォノフはこのコンクールにおいて、その技術と音楽性を遺憾なく発揮。とりわけ弱音の美しさに関しては際立っていました。
このコンクールにおいてトリフォノフは見事第3位を受賞。
名実ともにスターダムへ向かって駆け上がることとなります。
さらなる快進撃
ショパンコンクールで見事な結果を手にしたトリフォノフでしたが、翌年は彼にとってさらなる飛躍の年となります。
2011年のルービンシュタイン国際ピアノコンクールで優勝したかと思えば、その数週間後のチャイコフスキー国際コンクールにも参加し、第1位&聴取賞&全部門グランプリを獲得。
チャイコフスキー国際コンクールではショパンの練習曲Op.25の全曲演奏も行うなど、ショパンコンクール入賞者としての貫禄も見せ付ける形に。
さらにチャイコフスキー国際コンクールでは「過去にファイナルでショパンのピアノ協奏曲を弾いて優勝したピアニストが一人もいない」というジンクスもあったのですが、それもあっさりと克服。
いずれも世界最大規模の国際コンクールだけに、それらを立て続けに制するということはいうまでもなくとてつもない偉業です。
本人は「大きなコンクールは若いうちに受けておきたかったんです。」とあるインタビューで言っていましたが、19歳にしてここまでやり遂げてしまうとは。
現在に至るまで
その後は世界中のオーケストラと共演を重ね、2013年にカーネギーホールデビューも飾っています。
また2016年にはリストの「超絶技巧練習曲全集」をリリース。これが大ヒットとなり、2018年のグラミー賞最優秀クラシックソロ楽器賞をはじめ、数多くの賞を受賞するに至りました。
ダニール・トリフォノフの特徴
今やロシアで最も勢いのあるピアニストと言っても過言ではないダニール・トリフォノフ。彼についてさらに見ていくことにしましょう。
演奏スタイル
ロシアのピアニストは2つのの方向性があると思います。
一つはマツーエフのようなとにかく鍵盤を叩きまくり、「強く、速く」がモットーとも言えるピアニスト。
対するは、ルガンスキーのように、わりとスマートにまとめる表現を好むタイプのピアニストと言いましょうか。
この軸で分類するならば、トリフォノフは圧倒的後者であります。
そもそも体格的にマツーエフみたいなことは難しいというのもあるのでしょうけれども。
指はとにかく回りますし、汗っかきなので物凄いエネルギーを使っていることには間違いないのですが、常に音の美しさは保たれています。
とりわけ弱音の繊細さに関しては現代屈指のものを持っていると思われます。
撫でるようなフェザータッチで鍵盤上を駆け巡る演奏姿勢はなかなか独特。
一昔前はそれでいて、ニヤニヤしながら前傾姿勢で弾いていたので、さらに変態感が増していたのですが、最近はそうでもなくなりつつあります。
この10年のイメチェンぶり
いや、本当に最近のトリフォノフは10年前の彼とは姿があまりにも違うのですよ。
ショパン国際ピアノコンクールに出ていた頃はヒゲも全て剃っており、いかにも肌の綺麗なロシア美男子、と言ったような感じでした。
ところがここ最近はどうでしょう。巨匠よろしく髭を蓄えております。
なんだかツィメルマン に寄せていっているのではないか?とという気も。
現在まだ29歳と年齢的には若手ピアニストの部類に入るにも関わらず、物凄い貫禄があります。
夢は作曲家?
もう演奏家として間違いなく世界トップレベルであろうトリフォノフなのですが、とあるインタビューでは夢が作曲家である、という願望を明かしています。
2014年には自身の書いたピアノ協奏曲をクリーヴランド音楽院のオーケストラとともに演奏しています。
https://www.facebook.com/watch/?v=10155826714727486
このインタビューによると、そもそも作曲家として活動するためにピアノを始めたとさえ語っております。
作曲家という職業は、まずピアニストとして認められてからの方が注目してもらいやすいという面があるのは否定できないですもんね。
やはりと言いますか、祖国の偉大なピアニストであり名作曲家でもあるラフマニノフは彼の大きな憧れであるようです。
作曲家はなかなか売れるのが難しい仕事ですが、是非とも頑張っていただきたい。
ダニール・トリフォノフのおすすめ演奏動画
若き巨匠、ダニール・トリフォノフの演奏動画ご紹介します。
ショパンの主題による変奏曲(ラフマニノフ)
ショパンの「24の前奏曲 Op.28 20番」をモチーフに、憧れのラフマニノフが作った変奏曲。あの短い曲でここまでヴァリエーションを作れるのはすごいですよね。
トリフォノフもいつもよりも気合が入っているような感じ。見るからにエモーショナルな雰囲気。
そして、鍵盤上に雨が降っている……。いや違うぞ、これは全部汗なのか……!!
いやー、主催者も裏で冷や汗をかいているかもしれませんね。
ピアノが大丈夫なのかは気になりますが、演奏はさすがであります。
練習曲Op.8-12「悲愴」(スクリャービン)
ホロヴィッツの十八番でもあったスクリャービンの名曲。
トリフォノフだって激しい時は激しいんですよ。
ただ、弱音が巧みだからこそ決して粗暴なタッチになることなくダイナミズムを表現することができる。そこにトリフォノフの真髄があるように思われるのです。
ピアノ協奏曲第1番(ショパン)
コンクールでバリバリ活躍していた頃のトリフォノフの得意曲がこちら。この映像はショパン国際ピアノコンクールでのものです。
ピアノ協奏曲は音の張りがないとオーケストラの音に埋もれてしまうなど、表現面において独奏曲とはまた違ったバランス感覚が求められます。
トリフォノフはその辺りもこなれているような感があります。
制約の中でも一つ一つのフレーズにニュアンスを込めて弾こうとする姿勢がすばらしいですね。
ダニール・トリフォノフのおすすめCD【グラミー賞受賞】
超絶技巧練習曲集(リスト)
もう「トリフォノフと言ったらこのCD」と言ってもいいくらいの大ヒットCDです。
ご立派なPVもありますのでどうぞ。
リストの超絶技巧練習曲の全曲演奏に挑んだピアニストは過去に他にもいますが、このCDが決定盤となることにほぼ疑いないと思われます。
テクニック的に安定している、ということだけでもかなりのことなのですが、一つ一つの曲に対して表現面を軽視しないアプローチが好印象。
指が長いので、ペダルを使わずにレガートで弾くなど、音色の変化も優れています。
ピアノ協奏曲第2番&第4番(ラフマニノフ)
トリフォノフはここ最近でラフマニノフのピアノ協奏曲制覇というプロジェクトを進めていたのですが、その偶数番号が収められた一枚。
トリフォノフらしい、細部まで深く読み込まれた演奏と言いましょうか。単なる超絶技巧ピアニストではないということが容易にわかります。
変にロシア臭くないといいますか、あくまで自然なアプローチを基に構築されています。
また、協奏曲の4番は演奏機会にあまり恵まれない作品であり、貴重な録音です。
おわりに

さて、今回はロシアの若き巨匠、ダニール・トリフォノフについて見てきましたが、いかがでしたでしょう。
この年齢にしてここまでのことをやり遂げるというのは尋常ではないことなのですが、是非是非この先も、溢れる才能をクラシック音楽界に還元していって頂きたいものです。
最近ロシアではドミトリー・シシキンもなかなかイケイケな感じなので、数年後には二人で「リヒテルとギレリス 」時代のようなロシアの二大巨頭を形成しているかもしれませんね。

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