アルフレッド・ブレンデルというピアニストをご存知でしょうか?
古典ソナタのスペシャリストというだけあって、ピアノ学習者なら名前をよく見聞きするものの、どうも日本での評価は芳しくないのもまた事実。ヨーロッパでは間違いなくレジェンドの一人なのですが。
とはいえ本当にダメなピアニストならば、こんなにも多くのレコーディングを残し、コンサートに多数出演するということはありえない訳ですよ。
ということで今回はアルフレッド・ブレンデルというピアニストの経歴・特徴・おすすめ演奏動画・おすすめCDについて見ていきましょう。
目次
アルフレッド・ブレンデルの経歴
生い立ち
アルフレッド・ブレンデルは1931年1月5日にチェコ・スロヴァキアのヴィーゼンベルクという街で生まれました。
両親はホテル経営者とのことで、音楽とは無縁の家系だったそうです。そんな中、レコードやラジオが彼の音楽への興味が育みました。
そんな彼がピアノを恥怖めたのは6歳の頃。初めは引越し先のザグレブでソフィア・デゼリチェという人物からピアノの基礎を学びます。
さらに6年後にはグラーツ音楽院という場所でより音楽理論・ピアノ演奏共に専門的な指導を受けることとなります。
グラーツ時代には第2次世界大戦の影響で、塹壕を掘る仕事に駆り出されることもあったのだとか。
1947年にはウィーン音楽院へと進学。超名門ですが、当初は音楽教員の資格を目的に入学したのだそうです。ウィーン音楽院時代は籍を置きつつも、もうほとんど独学でピアノを引いていたのだそうです。
リサイタルデビューを果たしたのは1948年。17歳なので、他のピアニストと比べると遅く感じられますね。
グラーツで行われたこのリサイタルについて彼は「ピアノ文学におけるフーガ」と称し、バッハ・ブラームス・リストのフーガ作品を中心に据え、さらに自作のピアノソナタも演奏したそうです。
じっくり型のキャリア
翌年1949年にはブゾーニ国際コンクールにて4位入賞を果たします。無名の存在ながら、ワールドクラスのコンクールで見事に結果を残した訳です。
直後にはスイスで行われていた、エドウィン・フィッシャーのマスタークラスに参加して大きな感銘を受けたり、ヨーロッパと南米でツアーを行ったりと、じっくりとキャリアを積み上げていきます。
21歳では初のレコーディングとして、フランツ・リストの曲集をリリース。ブレンデルも若い頃はリストのような派手な曲をバリバリと弾いていたのですね。
その後もハイドン ・ベートーヴェン・モーツァルトなど古典を中心に録音を重ねます。
また、ロンドンのクイーン・エリザベス・ホールにてベートーヴェンリサイタルを行ったのが評判となり、世界各地でツアーを行うなどブレイク。フィリップスなど大手レコード会社からのオファーも殺到だったそうで。
名実ともにトップピアニストtして活動し、例えばカーネギーホールでは生涯にわたって81回も出演しているほど。同ホールにてベートーヴェンのソナタ全曲演奏も果たしています。
まだまだ御存命のブレンデルですが、2008年末を以ての引退を発表。ピアニストとして下り坂を迎えないうちに引退するのが彼のポリシーだったそうです。
今年つまり2020年に、あのウラディミール・アシュケナージが勇退したのは記憶に新しいですよね。
「生涯現役」のイメージが強いピアニストという職業ですが、こういうパターンもあるんですね。
ただ、どうやらクラシック音楽界から完全に手を引いたという訳ではなく、最近ではマスタークラスを開くなど後学の指導にも当たっているとのこと。
実演することもあるそうで、腕もまだまだ落ちていないようですよ。
アルフレッド・ブレンデルの特徴
アルフレッド・ブレンデルの特徴について見ていくことにしましょう。
古典のスペシャリスト
アルフレッド・ブレンデルはモーツァルトやベートーヴェン、ハイドンなどの古典が中心的なレパートリーとなっています。
またロマン派ではシューベルトのソナタ、即興曲などでも数多く録音を残しています。シューベルトは割と古典よりのロマン派ということで感覚が合うのかもしれませんね。
ショパンやシューマンも一応録音こそ残していますが、残念ながら彼の魅力が存分に発揮されているとは言い難い面も。
古典のようにより構造がしっかりしている曲の方が彼の構成力が活かされるということなのかもしれません。
日本と欧米での評価のギャップ
アルフレッド・ブレンデルはヨーロッパでは大きいホールを満席にすることができるほど、評価が高いピアニストです。
しかしながら、日本ではどうも評判はイマイチ。「中庸をいく」だとか「知的」のような形容がよくなされますのは象徴的ですね。
これは日本人は全体的に印象に残りやすいピアニストを好むからなのではないかと思います。
日本ではギレリスよりもリヒテルの方が遥かに人気なのも、そういった日本人の特性に通じるところがあるのではないかと。
確かにポリーニやアルゲリッチのような目が覚めるようなテクニックを持っている訳でも、煌めくような個性を持っている訳でもありません。
しかしながら、曲全体のバランスをうまく取りつつ音を紡いでいく構成力はピカイチ。
この点が日本のクラシックファンには響かず、「イマイチなピアニスト」と思われてしまう原因になってしまっていると思うのです。
映画出演も果たしていた
アルフレッド・ブレンデルは2008年にピアニストを引退しましたが、2009年には「ピアノマニア」という映画に出演を果たしています。
これはスタインウェイの調律師シュテファン・クニュップファーを描いたドキュメンタリー映画です。
彼はブレンデルの他にもラン・ランやブッフヒンダーといった名だたる顧客を抱える名調律師です。興味のある方はぜひ。
アルフレッド・ブレンデルのおすすめ演奏動画
ピアノソナタ(リスト)
リストのあらゆる技巧を尽くした超難曲として有名なピアノソナタ。いつもより一生懸命なのが動画を通して伝わってきます。
技巧的に苦しいのだろうと思われる箇所も無い訳ではありません。それにしてもこんなに力強く演奏するブレンデルは珍しい。
即興曲第3番D.899(シューベルト)
古典と並んでブレンデルが得意としていた作曲家がシューベルト。一応ロマン派の作曲家にカテゴライズされるものの、古典派の影響が色濃く残る作品が特徴的な作曲家です。
そんな中でもこの即興曲はブレンデルがとりわけ得意としていた作品。
ブレンデルの演奏はルバートや歌い方にこれといった特徴がある、という訳では全くないのですが、曲の構造を緻密に解析した上でその本質を炙り出していくかのよう。
彼の心の中の歌が静かに迫ってくるような、言葉では表現し難い説得力を持っています。
アルフレッド・ブレンデルのおすすめCD
アルフレッド・ブレンデルの残した名盤についてご紹介します。
MOZART
こちらブレンデルの円熟味溢れるモーツァルトのアルバム。
ピアノソナタや幻想曲が収録されています。自然で軽やかな作風が印象的なモーツァルトもブレンデルの手に掛かると、また新たな印象に。
元の曲の自由奔放さ、気まぐれといったモーツァルトの天性を象徴するような部分を一切殺すことなく、彼なりの理論的な解釈に上手に落とし込んでいます。
決してお堅い感じになることはなく、ブレンデルの人間味というのも垣間見える演奏となっています。
Last Three Sonatas
こちらシューベルトが残した最後の3つのソナタをメインに取り上げたアルバムです。
教授のような風貌をしていて、何やら気難しそうな感じさえするブレンデル。(ごめんなさい!)
でも、そんな彼の内面は豊かな情感であふれているのだなということを再認識させてくれるのが、シューベルトの後年のソナタ。
「長大で退屈」と言われることもあるシューベルトのソナタはやはり偉大な作品であると再認識させてくれるブレンデルの演奏は見事という他ありません。
おわりに

さて、今回はアルフレッド・ブレンデルというピアニストについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
決して目立つタイプではありませんが、ピアノ界に確かな足跡を残してきたのがブレンデルなのです。
もう引退はしてしまいましたが、これからも後進の育成など頑張っていただきたいものです。
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