今日も今日とて、ピアニスト紹介を。
ピアニストの記事を書くとなると、当然色々とリサーチもしているのですけれども、書いてる側としても発見が色々とあって楽しいものですね。
さて、今日の主人公はイタリアのピアニスト、マウリツィオ・ポリーニ。
彼はマルタ・アルゲリッチらと同世代で間違いなくクラシック音楽界のレジェンドの一人。
80歳も目前と高齢ですが、今なお偉大なピアニストとして演奏活動を続けています。
そんな彼の経歴、特徴、おすすめ演奏動画、おすすめCDをご紹介していきます。
目次
マウリツィオ・ポリーニの経歴
マウリツィオ・ポリーニはそもそも自身について多くを語ることはないピアニストです。そんな彼は一体どんな道程を辿ってきたのでしょうか。
ピアノとの出会い
マウリツィオ・ポリーニは1941年1月5日、イタリアのミラノで生まれました。
ミラノは芸術豊かな街としても有名ですが、この頃はまさに第2次世界大戦の真っ只中でもありました。
ポリーニの父ジノはイタリアでも有名な建築家、母は歌手兼ピアニストだったそうです。いわゆる芸術一家といったところでしょうか。
ポリーニの演奏はまるで巨大建築のようであると形容されることもありますが、ひょっとしたら父の影響もあるのかもしれませんね。
5歳からカルロ・ロナーティというピアノ教師からピアノを習うようになり、9歳でピアニストとしてのデビューを果たしたとのことです。
あまりに早いデビューで驚きですが、もはや世界的ピアニストの間では当たり前のようにあるエピソードですから恐ろしいものです。
その後、ミラノ音楽院でカルロ・ヴィドゥッソに師事しさらなる勉強を重ねます。
本人曰く小さい頃はそれほど練習しなかったのだとか。練習しなければ弾けない、というパッセージに出会ったことがないそうです。
コンクールでの栄光
ミラノ音楽院で研鑽を積んだポリーニは、1957年に16歳の若さでジュネーヴ国際ピアノコンクールに出場します。
結果は見事2位。かなり知名度も高いコンクールとあって快挙でした。ところが当の本人はこれに満足せず。
なんと、翌年のジュネーヴ国際ピアノコンクールにも再び出場します。どうしても1位という結果が欲しかったんですね。
そもそもクラシック音楽界においては入賞者が同じコンクールに出場するというのは異例中の異例です。
スポーツの世界だとオリンピック連覇だとかよく聞く話ですけれども、国際コンクールにはそもそもそういった概念が存在しないとでもいいましょうか。
ところが、結果はまたしても2位。それも1位なしの2位。言うなれば審査委員からの
「とてもよく弾けているのだけれども、足りない部分がある。」
というメッセージとも解釈できます。
それでもポリーニはめげることなく、1959年にはポッツォーリ国際ピアノコンクールに参加し、ここでようやく国際コンクールで初の1位を獲得します。
何よりも結果が欲しかった彼にとってはやっと、といったところだったのでしょう。
そもそも、ジュネーヴ国際コンクールで2位というのも十分すぎるほど立派な結果なのですけれども。
そして世界を驚かせたのが1960年のショパン国際ピアノコンクール。言わずと知れた世界3大ピアノコンクールの1つですね。
この権威あるコンクールにおいてポリーニは見事優勝を果たします。審査員も満場一致でした。
当時審査員長を勤めていたアルトゥール・ルービンシュタインもまた偉大なピアニストでしたが、そんな彼ですら、
「今ここにいる審査員の中で、彼より巧く弾けるものが果たしているであろうか。」
とコメントしています。
空白の8年間
しかし、ポリーニは国際的な名声を手に入れたにも関わらず、この後約8年間にわたって突如表舞台から姿を消します。
出演するにしても、イタリア国内のコンサートでたまに弾く程度となります。
ショパン国際ピアノコンクールほどの大きなコンクールともなると、入賞者には副賞として多くのコンサートツアーが確約され、リサイタルやレコーディングの誘いもバンバン舞い込んでくるもの。
しかし、ポリーニはそのほとんどを断ってしまいました。
この件に関しては腕の故障などの健康面に原因があったとする説もあるのですが、現在では更なる勉強を必要としていたという説が有力です。
ショパン国際ピアノコンクールを制したとはいえ、当時のポリーニはまだ18歳。彼ほどの技術の持ち主であってもまだまだ学ぶべきことは膨大にあったようです。
更なる研鑽を積むべく、イタリアの名ピアニストであるアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリにも師事していたようです。
彼の向学心は音楽に留まらず、同じ時期にミラノ大学で物理学を学んでいたことも知られています。
どことなくインテリな雰囲気を醸し出しているポリーニらしいですね。
王の帰還
1960年のショパン国際ピアノコンクール優勝以来、長らく国際舞台から姿を消していたポリーニですが、1968年、満を辞して国際ツアーに乗り出します。1974年には初来日も果たしています。
また、1971年にはドイツの名レーベルであるグラモフォンと契約し、名録音を連発します。
歴史的名盤とされるショパンエチュードの全集もこのグラモフォンによって録音されました。
こうして20世紀後半における最高のピアニストの一人としての地位を確立するに至りました。
現在でも毎年聖地カーネギーホールで演奏会を行うなど、演奏活動を続けています。
マウリツィオ・ポリーニの特徴
完全無欠のテクニック
マウリツィオ・ポリーニといえば完璧なテクニック、完璧なテクニックといえばマウリツィオ・ポリーニといって良いのではないでしょうか。
決して自分の技巧をひけらかすために必要以上に早いテンポで演奏することはありません。
では一体何がすごいのかと言いますと、ずばり「ミスタッチの少なさ」と「すべての音をくまなく鳴らしきる」の2つのポイントに集約されるかと思います。
どちらもプロのピアニストであれば、それなりの水準をクリアしているのが当たり前だと思うかもしれません。
しかし、これを文字通り「完璧に」遂行するのがマウリツィオ・ポリーニなのです。
長いピアニスト人生において、弾くのに苦労したパッセージはないそうです。技術のための練習はしたことがないのだとか。
そんな鉄人ポリーニもつい先日、79歳の誕生日を迎えまして、いよいよ80歳も目前となってきました。
伝説のピアニストといえども寄る年波には勝てず、ここ20年あまりはテクニックの低下を指摘されることが多くなってきました。
ミスタッチがあまりに多いだとかで、彼の演奏会を酷評しているブログもちらほら。
悲しいかな、皆いずれは衰えて死に至るのが人間。残されたキャリアも長くはないでしょう。
ポリーニ自身もファンも変化を受け入れなければならない時期にさしかかっていることは間違い無いでしょう。
感情を込めすぎない演奏
ポリーニはとても楽譜を大切にするタイプの演奏家でして、同じ曲の楽譜でも複数の版による違いを完璧に記憶しているそうです。
本人曰く楽譜についての話題なら無限に語れるのだとか。もはやオタクの域。
複数の版の中から最も自然であると思われる解釈を取捨選択して自分のものにしていくのだそうです。
ただ楽譜に忠実であるがゆえなのか、自分の感情を演奏に持ち込むタイプではありません。
最初から計算し尽くされている演奏とでも言いましょうか。
それゆえ、ポリーニの演奏は冷徹だと感じる評論家も一定数いるようです。
ただ、最近のポリーニは技術が衰えてきている一方で、より自分の感情を込める演奏をするようになったという声もちらほら聞かれるようになってきています。
最近のポリーニの演奏を生で聴いていないのでなんともなのですが、ひょっとすると芸術家として新たな境地に至ろうとしているのかもしれませんね。
親日家
ポリーニもまた親日家と言われてまして、京都と奈良はお気に入りでお寺巡りもよくするのだとか。源氏物語のファンでもあるようです。
また、黒澤明の映画や武満徹の音楽も好んでいると言われています。
レパートリー
ポリーニといえば、ベートーヴェン、シューベルト、ショパン、シューマン、ドビュッシーあたりの録音が代表的です。
ベートーヴェンに関してはソナタ全集の録音も行なっています。
またブーレーズ、ノーノ、シュトックハウゼンなどの現代音楽にも意欲的に取り組んでいるピアニストとして有名です。
マウリツィオ・ポリーニのおすすめ演奏動画
マウリツィオ・ポリーニの代表的な演奏を見ていきましょう。
ピアノ協奏曲第2番(ブラームス)
こちらピアノ協奏曲屈指の難曲とも言われるブラームスの協奏曲第2番です。
さすがというべきか、難しいパッセージも苦もなく弾きこなしていますね。
ポリーニはロマン派音楽の中でもこういった甘すぎない感じの曲との親和性が高いような気がします。
前奏曲集第2巻12番「花火」(ドビュッシー)
こちらドビュッシーの前奏曲集を締めくくる非常に技巧的な1曲です。前奏曲集の中でも知名度の高い曲ですね。
左右で交互に連打するなどテクニシャンぶりを見せつけるには格好の曲であると言えるでしょう。両手で下降するダイナミックなグリッサンドが最大の見せ場です。
ポリーニの場合手が大きく、割と軽々グリッサンドしている様に見えますね。腕全体の重みがあるからでしょうか。
マウリツィオ・ポリーニのおすすめCD
練習曲集(ショパン)
間違いなく彼のCDの中でもダントツの評価を得ている1枚です。
このショパンの練習曲集のCDは日本でも発売されましたが、その帯に「これ以上何をお望みですか?」という挑戦的な文言が書かれたことでも有名です。
おおよそショパン指定のテンポ通りで、音を1つも殺すことなく綺麗に鳴らしている曲ばかりです。
特にOp.10-1の演奏が個人的には好きです。すべての音を綺麗に鳴っているために、アルペジオ様の分散和音が織りなすハーモニーを存分に堪能することができます。
ポリーニは手が非常に大きく、12度届くという話もありますので(あくまで噂)、Op.10-1は彼にとっては楽々弾けてしまう曲なのかもしれませんね。
アシュケナージの録音と並んで、ショパンの練習曲集において最高の録音の1つであると言われています。
(余談ですが、アシュケナージはポリーニの出場したショパン国際ピアノコンクールの前回大会の2位獲得者でもあります。その話はまた別の折にでも。)
ピアノソナタ全集(ベートーヴェン)
ポリーニがおよそ30年の歳月をかけて成し遂げたのベートーヴェンのソナタ全曲録音プロジェクトです。
有名どころのピアニストでいうと、フリードリヒ・グルダやアルフレッド・ブレンデルも全曲録音を行なっています。
もともとは複数のアルバムに分けて録音して発売していたのですが、それらをすべて合体させて全集という形になっています。
注目ポイントの1つとして、21番ワルトシュタインの3楽章では見事なオクターヴグリッサンドを聴かせてくれます。
オクターヴグリッサンドは難しいというより、単純に手が大きくないとできない技術で、このパッセージも別の弾き方で工夫して乗り切っているピアニストが多いです。
しかしこの録音では、優しく語り合う様なオクターヴグリッサンドを聴くことが出来ます。
もちろん他のソナタに関しても大変素晴らしいものばかりですので、ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。
おわりに
さて、今回は大御所ピアニストの一人マウリツィオ・ポリーニについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
「まるで機械のようだ。」とさえ言われたかつての腕達者ぶりはもう見られないかもしれませんが、魅せ方さえ工夫すればまだまだ活躍が期待できるピアニストに違いありません。
「過去のピアニスト」と切り捨てるのではなく、これからの活躍にも期待したいものです。
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